日野自動車の「3つの改革」の作文性について

日野自動車が不正が発生するのは「上にモノが言えない」企業体質にあり、と喝破される

トヨタ傘下のトラックなどで有名な日野自動車が「3つの改革」という経営方針を出しました。

こんな中途半端な時期になぜかと言うと、2022年に日野自動車が国の基準に満たないエンジンに数字をごまかして認証し、そのまま販売したというのが判明して、謝罪会見があったことにまず由来します。

それもその不正は2000年から行われていた、ということです。

日野自動車は外部の有識者による特別調査委員会を設け、不祥事発生の分析を委託しました。
そしてつい先日発表されたのが全277ページの調査報告書です。

この中で今回の不正の根本的な原因は、「社員が上にものが言えない」企業風土にあり、日野自動車に対して「企業風土の抜本的な見直しが必須である」と勧告したのです。

そして日野自動車は、国土交通省に「再発防止報告書」と併せて「二度と不正を起こさないための『3つの改革』」を提出したのでした。

私も経験者

実は私も30代の頃は、結構有名な某企業で経営戦略やら事業戦略やらを策定する仕事をしていました。

経営戦略室はありましたが、そこは結局「金の運用をどうするか」「会社の目標管理制度をどうするか」のようなことしか検討せず、事業そのものの戦略を立てる部署は今考えるに不思議なことですが、なかったのです。

そこで私が一応認められて、自分の所属部署はあるのですが、それとは別に事業部門全体をみる物凄いパワハラの役員直下の「個人プロジェクト」に1人で所属し、怒鳴られながら、でもかなり勉強させてもらながら、3か年計画や事業戦略やら中長期の経営戦略やらを策定していたのです。

経営戦略がウソっぽくなるわけ

これはもちろん自慢ではなく、むしろ反省として書いているのですが、ある程度構造的にモノを考えられて、それを日本語にできてしまう人間は、そういう戦略とかを上手く作れるんですよね。

私も、顧客満足やら、事業ドメインやら、中間組織コストの軽減やら、経営者がなるほどと思うようなことを、その時は真剣に考えて策定していました。

その時に、そのパワハラの役員によく言われたのが「この戦略には爆弾の破裂音が聞こえない。火薬の硝煙の臭いがしない」ということです。

その時には「どうしろって言うんだ」と思いながら、そういう役員にも指摘はできても答えは持っていなかったので、そのままいくつも戦略を世に送り出していました。

なので、企業の策定する経営戦略やら事業戦略やらのキレイな言葉であればあるほどの「ウソっぽさ」は十分にわかっています。

実際に「3つの改革」を読んでみた

そこで、経験が教えるところの、ちょっと引っかかるものがあり、わざわざ検索して日野自動車の「3つの改革」というのを公式サイトで読んでみました。

すると、本当に「ただ美しい耳障りの良い言葉を並べただけ」の作文だったのです。俺だってもう少し、リアルなものを書いたぞ、と思いました。

その「3つの改革」を挙げてみると

❶「人財尊重」と「正しい仕事」を実践する経営改革
❷「人財尊重」を中心に据えた組織風土変革
❸ 新しい「日野のクルマづくり」のための構造改革

ということです。

こんなの「日野のクルマづくり」以外、別の会社から「3つの改革」だと示されても分かりません。

つまり、日野自動車の「血」が通っていない「作文」だということです。

だいたい「人材」を「人財」と書いている段階で、つまり「人材」を「人財」「人材」「人罪」と3つに分けるという松下幸之助チックな用語を使っていること自体、何も分かっていない証拠だと思いますが(どうやって「人材」を「人財」にするんだ?「人罪」はクビにするのか?)、中身を見るともっと「作文ぽい」のです。

たとえば❶の中が更に4つくらいに分かれているんですが、その中の「(1)経営人心一新」の具体策はこんな感じです。

原点に立ち返り、“お客様・社会のお役に立つ”を起点に
・「誠実」「貢献」「共感」をすべての判断基準に
 →経営層が「現場を重視、人に寄り添う」
・社長や経営層による現場/職場への行脚
・役員執務エリアのオープン化
・経営層の行動宣言と、実践に対する従業員による評価
・経営層の経営課題討議合宿

ね?

本当に「現場」を見て策定していないのがまるわかりでしょ。

だいたい社長が現場を行脚して何をするというのでしょうか。

殿のおなり~と言って、その時だけ形を整えるだけです。

社長がその辺の若い従業員に「何か問題はないか?」と聞いても、本当のことを言うと後で上司にこっぴどく叱られるので「先輩や上司がしっかり教えてくれているので、問題ありません」などと答えるだけです。

本当に起こっている問題を知りたければ、社長がせめて1カ月、1職工として働くか、あるいは企業内CIAを作って問題児、問題行動を調べつくし、大胆な人事異動をするか、それとも不穏分子をクビにするか、能力のある人間を抜擢してそのチームのトップにするか、などしかないのです。

そういう「血の流れる」施策ではなく「経営陣の合宿」なんて、具体策を思い付かないのでその場の誤魔化しなんかを載せている段階で、ああこの会社はダメだな、と思えるわけです。

「パワハラ体質」を改める策なんて「ハラスメントの撲滅活動(“パワハラゼロ活動”)」ですよ!

そんなんでパワハラがなくなるなら、心療内科は要らないっちゅうねん!

あれはもう病気だから、そういう人間は1つ部屋に入れて隔離するしかないのです。

日野自動車にも怒っている人がいるだろうな

まあ、日野自動車にもそういうことが分かっている人は当然いて、仕事帰りの居酒屋で
「あんな3つの改革なんて出してるからうちはダメなんだ!」
と叫んでいるに違いありません。

真にご愁傷さまです。

日野自動車の「3つの改革」