「役員」と「当事者」。日野自動車と銚子電鉄。

銚子電鉄の奮闘

先週このブログで「日野自動車の『3つの改革』」が作文過ぎて情けない」と言う話を書きましたが、それに対して「面白い」のが(ご本人たちは必死なので「面白がる」のは失礼かもしれませんが)銚子電鉄です。

銚子電鉄は千葉県最東端を走る、全長約6.9kmのローカル線で、2022年度の業績は

  • 鉄道売上 12381万円
  • 鉄道での赤字 -10277万円
  • 鉄道以外の売上 36816万円
  • 鉄道以外の利益 4650万円
  • 最終損益 -3482万円

と言う状態です。その前の年は6年ぶりに21万円の最終黒字を出したのですが、2022年は残念でした。

累計赤字などの数字はネットには出ていないので、何とも言えませんが恐らくかなりの累積赤字なのだろうと思われます。

しかし銚子電鉄の最大の特徴は、本業の売上が1億2000万円なのに、それ以外の売上が3億6000万円もあるところです。

これは、現社長の竹本さんが中心になって、「売れる物は何でも売る」「やれることは全てやる」と言う方針で、今までもざっと挙げると、

  • 「ぬれ煎餅」や、自社の経営難を題材にした「(経営が)まずい棒」や「鯖威張る(サバイバル)カレー」などの「ギャグのセンス」で開発された関連商品販売
  • 2015年~2019年に実施された「走るお化け屋敷電車」(これはまあ電車事業の一部とも言えますが)
  • 自主制作映画「電車を止めるな! 〜のろいの6.4km〜」の製作・配給
  • 駅名のネーミングライツ販売

などをしているわけです。


この、本業を潰さないために副業を必死にやる、ということは中小企業のあり得る姿なので、ほかでも見ることはできますが、重要なのは、銚子電鉄の「経営方針」に「鉄道に関連した事業の多様化」みたいなことが一言もない、ということです。

そもそも「経営理念」や「事業方針」さえも多分銚子電鉄にはなく、あるのは「安全報告」だけなのです。
そこでは

当社の基本方針は、「安全・安心・楽しいサービス」を提供することをモットーに社長以
下全社員に対し次の通り安全に関する規範を定め、情報の共有化徹底を図っていま
す。

① 一致団結し輸送の安全の確保に努める。
② 輸送の安全に関する法令及び関連する規程をよく理解するとともにこれを遵守し、厳正、忠実に職務を遂行する。
③ 常に輸送の安全に関する状況を理解するよう努める。
④ 職務の実施に当たり推測に頼らず確認の励行に努め、疑義のある時は最も安全適切な処理をとる。
⑤ 事故・災害等が発生したときは、人命救助を最優先に行動し、速やかに安全適切な処置をとる。
⑥ 情報は洩れなく迅速、正確に伝え、透明性を確保する。
⑦ 常に問題意識を持ち、必要な変革に果敢に挑戦する。

とまさに「鉄道屋」としての理念しか書かれていません。

つまり銚子電鉄は、理念は当たり前の如く「安全に運行する鉄道会社」であり、それだけが明文化されているのです。

決してカッコよく「鉄道に関連した事業の多様化」みたいなことは書かないのです。

日野自動車と銚子電鉄の違い

なぜここまでしつこく銚子電鉄について書くかと言うと、先週の日野自動車の「経営理念」とあまりに違うからです。

銚子電鉄の「理念」には「実」があります。単にカッコいい字面を書いただけではなく、本当に「自己を起こさないために」、「職務の実施に当たり推測に頼らず確認の励行に努め、疑義のある時は最も安全適切な処理をとる」と書いてあるのです。

これに対して、日野自動車はできもしない「経営陣が現場に寄り添う」「社長の現場行脚を行う」「機能を超えて関係者が目的を共有し「一緒に考え一緒に走る」体制を実現」などと言う、空虚な理念を掲げていないのです。

日野自動車は役人が運営し、銚子電鉄は当事者が舵をとる

まあ日野自動車は結局、経営層そして経営層を支えるスタッフが「役人」になってしまっており、対して銚子電鉄は「鉄道マンがその一方で必死に生き残りを考える『当事者』」であるということが違うのでしょう。

この致命的な違いを日野自動車の人たちが理解しない限り、不正もなくならないし、消費者から好感も得られないし、業績も好転しないでしょう。

このような会社は滅びる運命なのだと思います。(銚子電車はほとんど滅びる直前ですが、そこで必死に頑張っています。だから本当に危なくなったら、全国から支援が集まって持ちこたえるでしょう)