パワハラは本当に増えているのか?
株式会社パーソル総合研究所が2022年11月18日に発信したリリースによれば、全国の20~69歳の男女の就業者のうちいわゆるパワハラを経験したことがある人は全体の34.6%全体のだそうです。特にその内容で最も多いのは「自分の仕事について批判されたり、言葉で攻撃される」で、これがその中の65.1%だということです。
つまり今や就業者の1/3はパワハラにあったことがあると答える時代になったと言えるのです。
しかし注意が必要なのは、パワハラとは、被受者が「これはパワハラだ」と「感じれば」すべてパワハラになるという点です。ですから34.6%と言っても、実施は明らかにパワハラなのに「これは上司による普通の日常指導だ」と思っている人はこの中にカウントされていません。逆に、日常会話の中で上司が少し強い口調で言っただけなのに「パワハラだ」と感じている人も入っているということです。
その意味では、パワハラの実態はとらえられない、と考えるしかないでしょう。
むしろ「パワハラは増えていない。昔からあった。違いは昔はそれを『ハラスメント』だと考えず『指導』だと考えていたことだ」と言える可能性も高いのです。
それでもただ1つ言えるのは、「パワハラを受けた」と感じている人は、少なくともこの30年のスパンで考えたら、確実に増えているということです。
30年前の「モチベーションの上げ方」は1つしかなかった
なぜなら30年前は「モチベーション」を上げるには、外的動機づけと叱咤激励しかないと考えられていたからです。実際にはほかの理論もありましたが「実効性がない」と考えられていました。
具体的には
- 成績グラフをつけて競争させる
- 成績の悪い社員、失敗した社員は叱れば反省してやる気になる
- 人間は基本的に放っておくとサボるモノであり、従って常に尻を叩く必要がある
というようなことが、マネジメントの「常識」だと考えられていたからです。
「パワハラ」的指導に耐えられた人だけが昇格し、そして自分も「パワハラ」的指導をした
この「パワハラ」的な動機づけにモチベーションが上がり、あるいは我慢できた人間だけが、成績を上げ、昇格し、また次のマネージャーになります。当然、その方法が合わずに落ちて行く人はいましたが、全員を優秀な人間にしなくても、当時の日本、当時の会社は業績が伸びていましたから、全くのそのようなことを気にする必要はなかったのです。
そしてそのよう環境に適合して、あるいは耐えるメンタルを持っていて、業績を上げ、昇格た人が次代のマネージャーになります。そのような人は「自分がされた」マネジメント、動機づけ方法を自分も「する」ことがほぼ100%です。なぜなら自分はそれで育ったのだし、それでやる気になったからです。
PL学園の野球部で根性主義、精神主義のしごきを受けた宮本選手が、自分が高校3年生に進級し主将になった時に、それらを一切廃止した、という話がありますが、パワハラで自分が育ちながら、自分がマネージャーになった時にパワハラは効果がないと言って止められる人はほとんどいません。
ほとんどの新しいマネージャーは「自分が育てられた方法」を、つまり「パワハラ」ととらえる人もいる動機づけ方法をとるのです。
たった1つの方法でモチベーションをかけられる時代は終わった
しかしそれらはあくまで30年前の話であって、今は時代が違います。
1 まず「モチベーションのかけ方」が、30年前は「叱咤激励」「高い目標を持たせる」「グラフなどで業績を競争させる」「成績の悪いものは叱る」しかありませんでした。しかし、実は人のモチベーションの上がる方法はほかにいくつもあるということが分かって来ました。
2 30年前は全体のうち1割、多くても2割の人間さえモチベーションが高くなり成績を上げ、会社の戦略を考え、経営者になれば全社のほぼ80%の業績は固めることができました。しかし今は、社員1人1人の生産性が上がらなければ、会社の業績は上がらなくなりました。それは消費者が多様化し、というよりも自分の好みというものをしっかり持つようになり、多様な価値観を持たないと多様な顧客のニーズに対応できなくなっているじからです。
昔の方法では、マーケットのごく一部しか取れなくなりました。ですから社員1人1人を全て活性化させ、戦力化させる必要が出て来たのです。
3 そして30年前には高度成長の余波が残っていましたから、「頑張ればすべてが解決する」という価値観をほぼ全員が子供の頃から刷り込まれていました。しかし今は、子供の個性を生かす教育が行われ、「頑張る」ことだけが「問題解決方法」だという意識を持って子供たちは育ち社会人になっています。
これらの変化があるため、企業は市場の細分化されたニーズに対応するためにも、多様な価値観を持った社員全てを活性化させるために、多様なモチベーションの与え方を用意しなければならなくなったのです。
これができない会社は、いずれ確実に滅びるでしょう。
私たち、ヒューマンパワー研究所もヒトのモチベーションを研究し、それを4つにタイプ分類することに成功しました。そしてそのタイプ別に適切な方法でモチベーションをかけ、30年前なら「ダメ社員」と言われた人を、そのかつては生かせなかった能力を引き出し「会社を救う素晴らしい人材」にすることを可能にしました。
それが「SARC」というモチベーション理論であり、それを用いた企業研修であり、個別にモチベーションを上げる「やる気コンサルティング」なのです。
その詳しい内容は、こちらをクリックしてみていただければと思いますが、1つだけ例を挙げましょう。
先日「どうにも仕事をする気にならない<落ちる時>が月に数回ある」という男性に「やる気コンサルティング」を実施しました。「SARC」によって分析したレポートを見ると、彼は人間関係を大切にし、チームや部署の雰囲気が良いとやる気になる「Relationshipper(Rタイプ)」でした。
そこで彼に「部署で誰かが上司に叱られているのを見るだけで、やる気を失いませんか」と訊くと、まさにその通りでした。彼は間違いなくRタイプなのです。
ですからグラフなどで成績を競わされても全くやる気になりません。しかし彼は「そういう自分」を否定し、それがダメなところだ、と思っていました。つまり先ほど書いたような30年前の「モチベーションの考え方」を彼もやはりDNA的に刷り込まれていたのです。
そこで私は3つだけ彼にアドバイスしました。
1 環境や雰囲気が悪い時に、自分もやる気を失うことを「自分の欠点」だと思うのは止めましょう。それはあなたの「モチベーション」の源が違うだけです。
2 雰囲気の悪い環境や場所からは逃げてください。自分をそのような「ストレスフル」な環境に置くことはあなたにとってマイナスです。そして逃げることは決して恥ずかしいことではありません。
3 あなたは人の気持ちが分かり、個々の人をケアできる素晴らしい能力を持っています。だから職場などで、落ち込んでいる人、困っている人がいたら積極的に相談に乗ったり、手伝ったりしてあげましょう。その時にもらえる「ありがとう」があなたのモチベーションを上げます。
すると心なしか、コンサルティングの最初に比べて彼の顔色が良くなったような気がしまた。また「何だかホッとしました」という言葉も出てきました。
私たちは残念ながらコンサルティングをするだけなので、その後職場で彼がどのように自分を守り、自分にモチベーションをかけ、成長させていくかというところまでは見届けることはできません。しかし彼のような人が、どんどん増えているのが、現代の日本の就業環境なのです。
それを理解して、自分を育て信じていたマネジメントスタイルだけにこだわらず、人に合わせたマネジメントができるマネージャーだけが、これからの時代において人を育てることができるのです。
このようなことに何か気づきがあって、自分のモチベーションどどう上げていいか分からない、自分のマネジメントスタイルを変えなければならない、会社を変えなければならない、と思った人はぜひご連絡ください。何らかのお手伝いが私たちには絶対できますので。