「やる気の研究」~中小企業の社員は、「やりがい」を得るために独立を考える

「ワークエンゲイジメント」と「会社の満足度」の実態

1回飛ばしましたが、厚生労働省発行の「労働経済の分析」(令和4年版)で特集されている、「ワークエンゲイジメント」について考察したいと思います。

今回はこの厚生労働省の白書を離れて「ワークエンゲイジメント」と「会社の満足度」について考えます。つまり「仕事のやりがい」と「その会社への満足度」の関係性「同じように」上がっている、あるいは下がっているのか、という問題です。

結論から言ってしまうと、パーソル総合研究所が行った「働く10,000人の就業・成長定点調査」によれば、「ワークエンゲイジメント」はこの2019年から2023年の時系列でみると微減の一方「会社満足度」は同じ比較で微増、ということが分かっているのです。

そのグラフは以下の通りです。

「会社は好きだけれどやりがいはない」

つまり「会社は好きだけれど、やりがいはない」という労働者が増えている、ということです。

これは私には意外な結果でした。少なくともどちらの正の相関を示すだろうと考えていたからです。恐らく多くの人もそう思うでしょう。

しかし違うのです。この比較を述べた「コロナ禍で『ワーク・エンゲイジメント』はどう変化したのか?ー企業規模に注目して」(2023/9/14 パーソル総合研究所 https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/column/202309140001.html)ではその原因を「コロナ渦によってテレワークが増え、労働者が「孤独を感じている」からだと述べています。

労働者はコロナで孤独だったのか?

これも1つの分析でしょう。確かにコロナ渦が終わり、テレワークも一応終了した(企業によってはその利便性によって継続しているところもありますが)2023年には、「ワークエンゲイジメント」も「会社満足度」も上がっていますから、またオフィスに出社できるようになって、孤独を感じなくなったから、という解釈は成立します。

しかし一方で、ほかの分析も成立するのではないでしょうか。

そもそもこのテレワークによる「孤独」というものが、本当に存在したのか、ということ自体に私は疑問を感じています。

むしろ逆なのではないでしょうか。グラフをもう1度見てください。すると以下のことが分かります。

中小企業の「ワークエンゲイジメント」は下降傾向

「ワークエンゲイジメント」は大企業は2021年までは上昇、2022年に減少し、2023年に少し持ち直した。

中小企業は一貫して下がり続けている。

「会社満足度」は大企業、中小企業とも基本的には上昇トレンドで、2022年だけ落ちている。

「テレワークで孤独を感じたから」ということが理由なら、コロナ渦だと言われている2019~2023年まで一貫して下降トレンドでなければなりません。しかし実態はそうではないのです。

ではここから何が読み取れるのでしょうか。

労働者は「会社」を必要としなくなっている

私は「労働者は会社を必要しなくなっている」のではないかと考えます。

なぜなら、まず「会社満足度」が上昇しているのはむしろ「テレワーク」が増え、自分の会社の仕事は家にいてもできる「楽な仕事だ」と感じたことと、同時に市場ではコロナによって倒産が増加している中、自社が安泰であることに対しての満足度に影響されています。

一方で「ワークエンゲイジメント」が特に中小企業で減少トレンドなのは、「自分の仕事は会社に行かなくてもできるものだ」という気づきがあったからではないと感じるのです。

コロナ渦前は、同じ仕事でも会社でそれにまつわる会議や根回しなど「人が寄り集まる」ステップが必ずありましたが(それも頻繁に)、しかしテレワークになってそれらの「寄り集まり」が最低限になっても、仕事は同様の成果を挙げることができる、ということが分かってしまったのです。

ただしそれは中小企業でのことです。そこに勤める労働者は「自分の仕事は会社がなくてもできる程度のものなのだ」という気づき、「これなら自分1人で起業してもやっていける」と思ったのではないでしょうか。

一方大企業は、1つは仕事のサイズが大きいのでテレワークになっても「寄り集まり」が減らなかったため、そのような「独立志向」が生まれなかったのではないかと考えられるのです。

中小企業は社員の「やりがい」を作ることが急務

以上から見て、大企業の「ワークエンゲイジメント」は「会社満足度」は今後も上昇する可能性が高く、中小企業は逆に独立・起業が増加するのではないか、と推測できるのです。

それを避けたい中小企業は、社員のやりがいをどのように作るか、ということを真剣に考えるべきでしょう。