なぜ推敲が重要なのか
文章を書きあげると達成感もありますし、ホッとする部分もあります。
しかしそれで「執筆」は終わったわけではありません。いやむしろ、「ここから本当の執筆は始まる」と言ってもいいくらいです。
「執筆」のあとの重要なパート、それは「推敲」です。
試験でも終わって、用紙を裏返してのんびりしていると、うっかりミスがいくつもあって、予想の半分のテンスしか行かなかった、と言うことはありませんでした?試験でも必ず「見直し」をしますよね。「推敲」は私見で言えば「見直し」のようなものなのです。
しっかり推敲をした文章への評価
私もうっかりミスをするタイプなのですが、読者様から非常に細かい修正をご指摘いただくことがあります。
まあいいや、と思わない人が世の中にはたくさんいる証拠です。
何より、文章でいいことを書いていても、単純な誤字があったり、文章のねじれがあったりするだけで、その文章に対する読者の評価は半減するでしょう。
ですから執筆終了したら、2~3日おいて、頭から読者のつもりで読んでみましょう。怖ろしいほど直すべきポイントが見えて来ますよ。
推敲では何を見ればいいのか
しかし漫然と読んだのでは、100カ所問題があっても60カ所も問題点を見つけられません。推敲には「意識すべき」以下のようなポイントが以下の通り9つはあります。
これを1回の推敲で全部チェックすることは不可能でしょうから、今回は1と2に気をつけて推敲しよう、と何度も読み直すことをお勧めします。
この推敲をすすることは、あなたの文章力を上げることにも大いに役に立つはずです。では、1つづつご紹介しましょう。
1 誤字脱字
まず当たり前ですが「誤字脱字」チェックです。これは目を凝らして読んでいくしかありませんが、間違えやすい点をご紹介しましょう
- 大なき車に乗せる→大きな車に乗せる:送り仮名が逆になっている
- 早く山登りにいきいきたい→早く山登りにいきたい:送り仮名をダブらせてしまう
- 町会しました→了解しました:キーボードで隣のキーを打っている
どれもしっかり確認すれば防げる誤字脱字ですが、特に「ひらがな」の場合、起こしやすいミスですので気をつけましょう。
2 主述があっているか気をつける(主語と述語が一致していない。主語と受動態・能動態)
例えば
部下の提案は上司の手で修正しました。
これは本来、主語は「部下の提案」ですが、術後が「修正しました」と上司の行動になっています。つまり余計な文言を除くと
部下の提案は修正しました
になり、明らかにおかしいです。このように主語と述語が不一致な文もよくやりがちな間違いです。
正しくは
部下の提案は上司の手で修正されました。
と受身形で書かないと主語の「部下の提案」につながりません。
こういう点にも注意しましょう。
3 本当に自分の気持ちに合っていない言葉のように感じる
また「ミス」ではないとも言えますが、何となく使った言葉が自分でしっくりしない場合があります。
それは「誤字」ではありませんが、あなたの今までの「日本語を使って来た経験」が、これは違う、と警報をだしているのです。ですから、自分の気持ちを表現する上でその言葉が本当に適切なのか考えましょう。
たとえば
- 海を見ていると淋しい気持ちになった
- 海を見ていると寂しい気持ちになった
と言う文章の場合
- 淋しいは「人間社会で感じる孤独や人々とのつながりが希薄」であることによって起こる感情です
- 寂しいは「人や物事の存在感が失われ、空虚な感じがする」という感情です。俳句で「わびさび」と言う時の「さび」はこの「寂び」ですから、必ずしもマイナスの意味ではありません。
このように同じ音、同じ響きで近い意味を持った言葉でも、本質的に違う場合は結構あります。ですから自分の感情や印象を表す言葉として、本当にどれが正しいかについて、よく考えましょう。
その際に便利なのが「類語辞典」です。検索で「淋しい 類語」と入れると、同じような意味の言葉が列挙されますから、その中から自分の気持ちにフィットするものを選びましょう。
4 読みやすさを意識する(同じ語尾を続けない)
人は黙読する場合でも、頭の中でその文章を「読んでいます」。ですから、たとえば
今日は雨だった。だから散歩に行けなかった。私はつまらなかった。天気予報を見たら明日も雨なので余計にがっかりした。
と言うような文章はぜんぶ「た」で繋がっているため、単調であり読みにくいと感じる可能性が高いです。ですから途中で
今日は雨だった。だから散歩に行けなかったのである。私はつまらないと思った。天気予報を見たら明日も雨なので余計にがっかりした。
などのように語尾に変化を与えることで、読み手が単調に感じにくい、つまらないと思いにくい、という効果が得られます。ただし「城の崎にて」で有名な(と言っても最近の人は国語の教科書で読んだこともないかも知れませんが)志賀直哉は語尾がほとんど「た」でしたが、それが非常に端正で静謐で、描写的な私小説に相応しいとほめられていました。
5 声に出して読み、改善点を探す
先ほど、黙読でも頭の中では音読をしていると書きましたが、その「音で聞くことで、違和感を探す」ことをより明確に行うのが「音読」です。
すると、文法の間違いだけはなく、文章としてダラダラしていて何を言っているのか分からない、同じような言葉、言い回しばかりしている、などの欠点が感覚的に分かります。
6 表記を一致させる
まず基本のキとしては、「自分」を表す時に「わたし」と「あたし」が1つの作品の中に混入しているのはおかしい、と言う点は誰でも気づくでしょう。
さらに同じ言葉を何度も使おうとしていても、それが漢字になっていたかと思うと、次はひらがなになっている、と言う場合があります。
たとえば「犬」でも、
- イヌ
- いぬ
- 犬
- 狗
などを無規則に変えて書く人がいます。
これは表記の乱れと言って、文章を書く時には避けるべきポイントです。
もちろん上級者の中には意図的に「わたし」と「アタシ」というように表記を変える人もいますが、それはそれ自体が「表現」として成立しているからOKなだけです。
まず私たちの場合は、表記を一致させることに気をつけましょう。
7 間違えやすい漢字に気をつける
似たような意味で似たような音を持っている漢字の使い分けも、間違いやすいポイントです。
例えば「明解」と「明快」です。
「彼の説明はいつもメイカイで分かりやすい」
と言う場合「明解」でしょうか、「明快」でしょうか。
これは統計でとったら、かなりの割合で「間違える率」が高い感じです。はっきり言って、例に挙げてしまいましたが、辞書によって、学者によってその使い分けの理屈が全く異なる、大変いむずかしい問題です。
ただ最も一般的に言われているのは
- 明快:話を説明する時の筋がはっきりしているさま
- 明解:話の根拠が明らかであること
と言うことでしょうか。ですから先ほどの
「彼の説明はいつもメイカイで分かりやすい」
彼の話が「本当に当たっているかどうかは分からないが、筋道として分かりやすい」と言う場合は「明快」を使います。また「根拠が確かなので正しい意見を言っている」と言う場合は「明解」になります。
このように文章の主旨から言って使う漢字が違ってきますので、ぜひその辺りも気をつけましょう。
8 「ら」抜けの文章にしない
この「ら抜け」言葉は、既にかなりのレベルで日本語に浸透してきているので、「言葉は時代によって変化する」という事実から言えば、「ら抜き」言葉はもしかしたら直さなくてもいいのかも知れません。
しかし
「私、明日8時なら起きれるわ」よりも「私、明日8時になら起きられるわ」の方が、「正しい」という人がいる間は、それを踏襲した方がいいのではないかと思います。
でなければどれほど良い内容の文章を書いても「しょせん、ら抜けだよ」と正しく評価されないかも知れません。
9 重複表現に気をつける
これは、芸人さんがギャグにしていたりするので、分かりやすいかも知れません。
極端な例は
「その岩の上は危険が危ないから降りた方がいいよ」
ということでしょう。しかしその他にも、普段使っていても実は重複表現、と言うものは結構見当たります。
たとえば
速いスピード
上へ登る
静かな沈黙
大声で叫ぶ
これらも「重複表現」です。文章のプロであるはずの新聞にもこのような言い回しが、気をつけて読んでいるとかなり見つかります。
しかし、あなたが文章を書く時には、できるだけその点も気をつけた方が、より文章を正しく書くポイントが学べるでしょう。
他人の目でも必ず見てもらおう
以上「推敲」を行う場合の着眼点を9つ挙げました。
すべてを完璧にはできませんから、まずできるところからでもしていきましょう。
その上で大切なのは、誰かに頼んで第三者の目で原稿をチェックしてもらうことです。まだ本になっていない段階から見せるのは恥ずかしいかも知れませんが、それの誤った日本語が多くの人に読まれてしまう、と言うことの方がより恥ずかしいです。
出版社の中には、推敲、つまり校正と言っても「誤字脱字」しかチェックしないところが多いです。そういう出版社は内容についてもアドバイスしてくれませんから、お付き合いしないことをお勧めします。
我田引水ではありませんが、私たちクリエイティブ集団COW AND CATは、原稿の内容を深く読み込み、著者様の意図を理解した上で、著者様と議論になるくらい「こちらの言葉の方がいい」と主張させていただきます。本当は、著者様の言う通りに入稿、出版をした方が私たちにとっても、労力も時間もかからず楽です。
しかし著者様がせっかく出される本である以上、できるだけ良い本にするのが私たちのミッションだと思っているので、この「推敲」の場面でもかなり突っ込んだダメ出しをさせていただくわけです。もちろん、その部分は任せるということであれば、自分の作品である以上に真剣に原稿に向かいます。
もしも、そういう細かいところはいいから、とにかく安く出版してほしい、という著者様の場合は、私たちクリエイティブ集団COW AND CATは委託先として向いていないかも知れません。
最後は脱線しましたが、「推敲」についてお分かりいただけたでしょうか。
ここまでで、本の中身についてどう磨いてくか、ということはお伝えしましたので、次週は表紙のお話を少しさせていただこうと思います。